ジュンク堂新宿店で城田俊著「現代ロシア語文法 中・上級編」(東洋書店)、原求作著「ロシア語の体の用法」「ロシア語の運動の動詞」(いずれも水声社)を買ってきた(ジュンク堂で1万円以上の買い物をすると400円のドリンク券をくれる。だから別のフロアの商品もまとめて会計した方がいいかもしれない。このドリンク券は同じビルに入っている同書店の喫茶室で使える。もちろんジュンク堂の別の店舗に入っている喫茶室でも使える。有効期限は3か月)。
原先生の著書については、さとう好明さんが「必読書」に挙げておられるのでいつかは読まなければと思っていたが、上級者向けのもっと難しい本だと思っていた。出版社も聞いたこともない会社だし。。。かつて手にとってぱらぱらめくってみたことはあるのだが、いかんせん見た目が地味である。大学のロシア語の先生が、授業で学生に配るためにプリンターで打ち出した自作のプリントといった趣がある。ロシア文はタイプライターのような書体で力点(アクセント)もЁのテンテンも付いていない(まあ、中級以上の読者には要らないのかもしれないが)。これが多数の語学書を出しているもっと有名な出版社であれば、もう少し魅力的なレイアウトにしたのではないかと思うのだが、見た目で損をしている感はある。
しかし、実際に読んでみると非常に面白い(まだ読了したわけでないが)。たとえば、初級の文法書では完了体は「1回の完結した動作をあらわす」、不完了体は「継続する動作、反復される動作をあらわす」などと習う。しかし、実際にはこれではうまく説明できない例がいろいろと出てくるのである。
完了体の本質的な機能は、「動作をはっきりと、明確にとらえる」というところにあり、不完了体の本質的な機能は、「ものごとを漠然と、曖昧な形でとらえる」ということになります。p.26
この箇所を読んだとき、それまでぼんやりと「そうではないか」と考えていたことがずばりと書かれていて、思わず膝を打った。不完了体動詞の過去形における「事実の名指し」と命名される用法(単に事実があったかなかったかを述べる)の考察もなるほどと思う。
さらに、「否定詞をともなった過去形における体の用法」も興味深い。初級文法書の説明に従えば、
не + 不完了体過去形 →反復される動作の否定
не + 完了体過去形 →1回の動作の否定
となる。もちろんこれで理解できる場合もあるが、理解できない用法もある。そもそも、「動作そのものは1度もおこなわれなかったのに、その動作が1回の動作であるということが、どうしてわかるのでしょう」(p.82)。なるほど。確かにそうだ。そして、続いて「戦争と平和」の例文が掲げられ、
予期していた動作が行われなかった→完了体過去形の否定(予期・期待していたがゆえに、それはある程度特定化された1回の動作である。したがって完了体の過去形を否定した方が適切という発想)
予期があるとかないとかということは関係なく、とにかく動作がまったく行われなかった→不完了体過去形の否定
という説明が与えられる。実に面白い。この辺りの説明は、一般的な文法書に書かれているだろうか。…「現代ロシア語文法 中・上級編」の132ページに完了体の注意するべき用法として「2. 想定・予定」という節があるが(わずか半ページ)、本書と比較すると意味・用法の本質的な核心を突いていないという意味でまったく不十分である(城田先生の「…中・上級編」についてはまだ読んでいないので見落としがあるかもしれません)。
例文には初級レベルでは難しい単語も混じっているが、初級の終わりくらいから中級の入口くらいのレベルでも、(初級)文法書に書かれている(通り一遍の)体の用法の説明に疑問を感じ始めた人にとっては非常に有用かつ面白い本であると思う。本質的な点を理解したいという人には強くお薦めしたい。用例をいくつか暗記して、その場の用が足りればそれで良いという人にとっては高価でかつ面倒くさい本になってしまうかもしれない(見てくれは地味なので本棚に飾るなど、所有する喜びはない。むしろ書き込みで汚しても惜しくしないという雰囲気を持っている)。
「ロシア語の運動の動詞」の方はまだ読んでいないが、期待してしまう。
…アマゾンに否定的なレビューが上がっているが、わたしも最初からこの本を使って動詞の体を学ぶのはお薦めしない。最初は一般の文法書で学び、それで理解できないもやもやが溜まってきた頃に出会うのが最善と思う(ただし、けっして上級者限定の本ではないと思う。疑問点を抱えて飢え渇き、悩んでいるときに読むと、まるで砂漠で出会ったオアシスのようにそのありがたみが分かる。そうでない人には退屈)。